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大ヒット『呪術廻戦』から文学賞四冠『地雷グリコ』まで、螺旋進化する異能バトルと特殊設定ミステリのいまを解き明かす!

海燕
偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。
ヲトナ基地で今回紹介する記事は「大ヒット『呪術廻戦』から文学賞四冠『地雷グリコ』まで、螺旋進化する異能バトルと特殊設定ミステリのいまを解き明かす!」。海燕さんが書かれたこの記事では、異能バトルと特殊設定ミステリへの偏愛を語っていただきました!

「どんな者だろうと人にはそれぞれ

 その個性にあった適材適所がある

 王には王の……

 料理人には料理人の……

 それが生きるという事だ

 スタンドも同様

 「強い」「弱い」の概念はない」

荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』

「面白そうですね」

 伸びきったカーディガンを着た少女は、机の上で指を組み、対戦者に隙だらけの笑みを投げた。

「詳しいルールを聞きましょうか」

青崎有吾『地雷グリコ』

火花散らす戦い。いまも昔も、少年マンガの華は「バトル」である。かつて『少年ジャンプ』が600万部という出版史上類例のない発行部数を記録していた頃、その中心にあったのは天才作家鳥山明の歴史的大傑作『ドラゴンボール』をはじめとするバトルマンガの数々だった。

そして、その後も『るろうに剣心』、『ONE PIECE』などバトルマンガのヒットは続き、いまに至っている。しかし、一方で現在のバトルマンガは、かつてのただ必殺技を応酬するシンプルな形式のものから、極端に複雑な内容の「異能バトル」へ「進化」してきているのだ。

この記事では、そういった花ざかりの「異能バトルマンガ」と、それとはまた異なる経路をたどって奇怪なまでに多彩に進化しつづけている「特殊設定ミステリ」を合わせ、「ロジックエンターテインメント」と総称したうえで、比較検討してみることにしたい。

現代の「ロジックエンタメ」はきわめて優れた作例が多数見られる一大黄金時代を迎えている。その全貌を語り尽くすことはむずかしいが、とりあえず簡単な歴史と目立つ作品だけでも一望してみよう。

【異能バトルマンガの起源】

さて、まず、「異能バトルマンガ」はどこから来ているのか? その気になればいくらでもさかのぼれそうではある。

たとえば遥か古(いにしえ)の『イリアス』と『オデュッセイア』の頃からヒーローには「肉体派」と「知性派」がおり、「異能バトル」はその後者の血脈をひき継ぐものであるくらいのことはいっても良いかもしれない。

が、歴史的に見て、決定的に重要なのはやはり異才・横山光輝の作品群であると思われる。

かれの『伊賀の影丸』、『バビル二世』といった作品群では、あきらかに現在の異能バトルにつながる「それぞれのキャラクターの能力を活かした頭脳戦」が、いかにもシンプルな形ではあるが、くりひろげられている。

もちろん、そのまえには奇想の大天才・山田風太郎による伝説の忍法帖シリーズがあり、そこからさらにさかのぼるなら中国の『水滸伝』あたりに源流を求められるかもしれないが、「異能バトルマンガ」というフレームで考えるなら横山の業績はきわめて重要だろう。

しかし、そこからバトルマンガはむしろ単純な殴り合いの方向へと回帰する。その最大の成果が車田正美の『リングにかけろ』、『風魔の小次郎』、『聖闘士星矢』といった一連の作品群である。

これはこれで大人気を博した素晴らしい作品たちなのだが、そこでは各々の人物が絶叫とともに必殺技を繰り出すことがくり返されるばかりで「頭脳戦」の要素はほとんど見て取れない。

同時代の『ドラゴンボール』はそれに比べるとはるかに「かけ引き」の要素が強いが、「異能を活かした頭脳戦」とまではいえないだろう。

やはり、「異能バトル」の歴史において絶対的に重要な作品としては『ドラゴンボール』や『聖闘士星矢』とともに黄金期の『ジャンプ』を支える屋台骨となった『ジョジョの奇妙な冒険』の名前を挙げなければならない。

荒木飛呂彦の比類ない才気は、「異能バトル」というジャンルをほぼ独力で完成させてしまった。

荒木が試みたのは、当時の少年マンガでしばしば見られた、ひたすら敵味方の戦いのスケールが増幅していくいわゆる「パワーのインフレ」に対するアンチテーゼだった。

『ジョジョ』は第二部あたりからすでに「頭脳戦」の要素を強く備えていたが、「異能バトルもの」として完成するのは「スタンド」という、ある種の異能概念が登場する第三部である。そこでは、それぞれのキャラクターたちが、おのおの個性と特徴が異なるスタンドをもちいて複雑なかけ引きを展開する物語が成立していた。

ここで重要なのは、「スタンドには強弱という概念はない」とされていることだ。もちろん、パワーやスピードにおいてより優れたスタンドは存在するのだが、実戦においては必ずしもそういったスタンドの使い手が勝つとはかぎらない。

実戦で大切なのは自分の個性を活かすことなのであり、その組み合わせによってはより脆弱に見えるスタンドが最強と見えるスタンドを破ることもありえるのだ。

こういった展開の確立は、すでに横山光輝作品においてその萌芽が見て取れるとはいえ、のちのちにまで大きな影響をあたえる革命的な「進化」であるといって良いだろう。「異能バトル」は荒木という別格の才能を得て一気に開花したのである。

【『HUNTER×HUNTER』や『呪術廻戦』へ。進化を遂げる異能バトル。】

その後、やはり少年マンガの歴史上でも異数の才能である冨樫義博が展開的な「パワーのインフレ」の末、袋小路に入った物語を打開するべく『幽遊白書』に「異能バトル」の要素を取り入れようとする。

しかし、この時点ではまだかれの「異能バトル」は未完成に終わったといって良く、『幽遊白書』はふたたび「パワー比べ」に戻っていく。冨樫にとっての「異能バトル」が完成するのには、続く『HUNTER×HUNETR』を待たなければならない。

『HUNTER×HUNTER』! これこそは、「異能バトルマンガ」の現代における最高傑作といって良いであろう。

この作品には『ジョジョ』における「スタンド」に相当する「念能力」という概念が登場するのだが、この能力は体系化されており、それぞれに長所と短所がある絶妙な設定になっている。そして、一人ひとりのキャラクターがそれぞれの念能力を駆使して壮絶な「頭脳戦」がくりひろげられるのである。

『HUNTER×HUNTER』が「異能バトル」として発展させたのは、その複雑さである。初めはわりあいにシンプルな一対一の戦いとして始まったこの作品のバトルは、やがて複雑に長短が絡み合う乱戦となり、物語の後半、いわゆる「キメラアント編」に至ると、『ジョジョ』と比べてすら際立って複雑な群像劇が描き出されることになる。

その結果、「キメラアント編」は全少年マンガの歴史でも屈指といって良い作品となった。が、冨樫はそれでもまだ止まらない。続く展開においては、さらにさらに膨大な登場人物が絡み合うバロック的ともいうべき内容となり、いっそう複雑さを増しているのである。

『HUNTER×HUNETR』は現在、連載が中断中で、はたしてこのあまりにも錯綜した展開がどのような収束を見るのか、あるいは未完に終わるのかは現時点ではまだわからない。ただ、いままでの内容を見るだけでも、この作品があらゆる「異能バトルマンガ」の頂点というべき大傑作であることは論を待たないところだろう。

ここにおいては単に「強」と「弱」が徹底して相対化されているだけではなく、そういった個々人がチームを組んで互いの短所を補い合う筋書きとなっており、物語を構想する作者はもちろん、読者のほうも記憶力の限界に挑戦しなければならないことにもなっている。

決して一般的なマンガとしてすんなり入りやすいとはいえないが、その面白さは破格だ。

そして、この『HUNTER×HUNTER』の衣鉢を継ぐのが、この原稿を執筆時点でリアルタイムに大人気連載中の『呪術廻戦』である。『呪術廻戦』においては『HUNTER×HUNTER』の「強弱の相対化」がさらに行き着くところまで行き着いてしまっている。

ここでは、一定の「強弱」は明確にありつつ、その一方でもう何が「強」で何が「弱」なのか、まったくわからない。厳密なルールにもとづいて展開するバトルゲームとしての一面はあるのだが、それは変則を究め、ほとんど物語の崩壊とすれすれのところまで来ているようにすら見える。

このマンガは「異能バトル」全体の奇形的ないし恐竜的な進化系統樹の果てに生み出された異形の鬼子といっても良いであろう。

また、この種のマンガを語るとき、頭脳戦ものの頂点『DEATH NOTE』に触れないことは片手落ちだろうし、『カイジ』シリーズのようなギャンブルマンガ、『黒子のバスケ』のような「異能スポーツマンガ」もまた、ある種の「ロジックエンタメ」として「異能バトル」の系統樹に組み込んで語ることもできるかもしれない。

少年漫画とは違うが、きわめて複雑巧緻な内容のSF小説『マルドゥック・アノニマス』のことも可能なら語っておきたい。だが、いかにも文字数が足りないのでここでは省く。話を「特殊設定ミステリ」に移そう。

【特殊設定ミステリの百花繚乱】

「特殊設定ミステリ」とは、文字通り、魔法が存在したり、ゾンビが徘徊していたりといったある特殊な設定において推理を展開し犯人を捜すタイプのミステリ小説のことである。

「何でもあり」の魔法が存在するのではどうしたってミステリは成り立たないだろうと思われるかもしれないが、じっさいにはたとえスーパーナチュラルな要素が登場しても、そこに何かシビアなルールが存在しているかぎりはロジックを駆使した物語は成立する。

それこそ『DEATH NOTE』において、「名前を書き込むと人が死ぬ死神のノート」が登場してもなおロジカルなバトルが成り立ったことと同じである。

こういった超自然的な設定を前提としたミステリは、昔からまったくなかったわけではなく、歴史的にはアイザック・アジモフの『はだかの太陽』や、ランドル・ギャレットの『魔術師を探せ!』あたりにこのジャンルのはじまりを見いだせるかもしれない。いずれにしろ、それは近年、驚くべき進歩を遂げ、幾つもの傑作を生みだしている。

ここでその全貌を語る余裕はないが、たとえば白井智之の『名探偵のいけにえ:人民教会殺人事件』や、今村昌弘『屍人荘の殺人』、相沢紗呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、そして最近、本格ミステリ大賞や日本推理作家大賞、山本周五郎賞、SRの会ミステリーベスト10第1位と連続受賞し話題となった青崎有吾『地雷グリコ』はその代表格というべきであろう。

これらの小説では、それぞれ異なる「特殊設定」のもと、きわめてレベルの高い推理のロジックが物語られる。

こういった、ミステリとしてはいかにも異形とも思える作品たちは、いわゆる「新本格」と「脱本格」の流れ、たとえば麻耶雄嵩『神様ゲーム』や、森博嗣『すべてがFになる』、京極夏彦『魍魎の匣』、西尾維新『クビシメロマンチスト』、また、「メフィスト賞」受賞のさまざまな作品などがあって初めて生まれ得たものではあるだろう。

だが、べつの見方をするなら、先述の「異能バトルマンガ」や『逆転裁判』、『ダンガンロンパ』といったビデオゲームの影響も大きいように思える。じっさい、「特殊設定ミステリ」の代表的な作家が集まって語り合った「特殊設定ミステリー座談会」では、このようにも語られている。

若林 これだけ定義や呼称について議論が交わされるほど、“特殊設定ミステリ”は成熟のときを迎えているといえます。

その成熟を考える上で私が重要だな、と思っているのは、2000年代における特殊なルールを用いた頭脳バトルやデスゲーム、ギャンブルを描いた漫画・アニメの流行です。特殊ルールの頭脳バトル漫画で代表的なものを一つ挙げるならば、『DEATH NOTE』(大場つぐみ原作、小畑健漫画、集英社)ですね。

相沢 それについては僕も同意見です。というより「ようやくミステリが、漫画やアニメに追いついた」という感覚なんですよ。

青崎 それ、もの凄く良く分かります!

相沢 だって、世界に課されたルールを熟知しながら問題を解決していく、という形式の物語は漫画やアニメでは昔から山ほど書かれていたんですよ。ですが、ミステリ業界では今、「“特殊設定ミステリ”が盛り上がってますよね」と言っている。あえて厳しい意見を述べるとするなら「いや、それは他のジャンルから見ると周回遅れ」なのかもしれない。あくまで一般文芸のミステリ業界では、こういったジャンルがやや、亜流のように見られていたこともあるのでしょうか。

引用:読みたい!が見つかる|令和探偵小説の進化と進化 「特殊設定ミステリー座談会」! 後編
https://tree-novel.com/works/episode/44a6d7122b9267c6fcc9bdade002b8ae.html

純粋にミステリ小説の進化系統樹のなかから生み出されたように見える「特殊設定ミステリ」にも、じつは「異能バトルマンガ」の影響が見て取れるわけである。

もちろん、そこには両者を越境する形で『ヴァンパイア十字界』、『虚構推理』などの傑作を物してきた奇才・城平京などの業績が絡んでもいるのであろう。

いずれにせよ、いま、「異能バトルマンガ」や「特殊設定ミステリ」を含んだ「ロジックエンタメ」の土壌はすこぶる豊饒である。これからもバトルマンガやミステリ小説は互いに挑発しあい、影響をあたえあって進展していくはずだ。

一読者としてはひたすらにあらたな作品の登場を待つばかり。ロジックエンタメはいまなおさらなる進化の途上にある。次の傑作は、もっとすごいに違いない!

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