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奇怪かわいいアリ植物、育てた!愛した!枯らした!

まくるめ
偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。 ヲトナ基地で今回紹介する記事は「奇怪かわいいアリ植物、育てた!愛した!枯らした!」。まくるめさんが書かれたこの記事では、ちょっと変わった植物への偏愛を語っていただきました!

ずっとあこがれていた植物がある。

子どものころ見たドラえもんの映画で、植物を改造して住むシーンがあった。ドラえもんが植物に謎の薬「植物改造エキス」を注入すると、木はみるみる変形し、中にカレーライスの入った大変都合のよろしい実をつける。さらにドラえもんは「植物改造エキスⅡ」を使い、木で即席の拠点のようなものを作るのだ。

大人になってから見ると、未来社会の遺伝子汚染などがやや心配になるところではあるが、子供のころの自分はこのシーンが大好きで、生きた植物の家と料理の入った実にたいそうあこがれた。今でもあればぜひ住みたい。はたらきたくない。

さて、そんなふうに住みかを提供してくれる植物だが、完全な夢物語かというと、そうとも言えない。近いものは自然界にちゃんと存在する。ただし人間のためのものではなく、アリ用だが。

milivigerova/Pixabay

遠く珍しい存在だったアリ植物

その植物を初めて知ったのは、熱帯の生き物を紹介するドキュメンタリー映画だった。

木の幹に、その木とは別の、ボールが張り付いたような形の植物がくっついている。そのボールは植物の身体だが、同時にアリの巣でもある。

植物に害をおよぼすようなほかの生き物がやってくると、その植物からはぶわっとアリが出てきて、その侵入者にセコムのように対応する。アリからしても植物は自分の巣なので利害は一致している。

アリはこのようなガードマンの働きをするわけだが、同時に植物にとって貴重な肥料を提供する。熱帯の森は豊かに見えるが、じつは緑の砂漠と言われるほど土には肥料成分は少ないのである。移動して餌を拾ってくれるアリは肥料集め役でもある。

もちろんその分、アリノスダマも胴体を提供している。この胴体には最初から洞窟のような空洞があり、それは成長とともに迷路のように複雑になる。アリからすれば巣を作るという大きな労力が不要になるわけだ。

そんな「共生」の代表的な例として紹介されていたのがアリノスダマというアリ植物だ。子どものころ本などで読んだことがある人も多いだろう。

Prabir Kashyap/Unsplash

わたしはこの植物にあこがれた。なにしろおもしろい。ぜひ実物を見てみたい。そして可能なら育ててみたい。そう思った。

しかし同時に、それはかなりの無理難題だった。アリノスダマは珍しい植物で、ホームセンターや園芸センターに行って「アリノスダマ売って」なんて買える代物ではなかった。

当たり前だが、売っている植物というのは誰かがお店に卸しているわけだ。いわゆる流通網だが、アリノスダマの流通網なんてものはそもそもなかったのである。

わたしが子どものころはそんな状況だった。中学生のころには親に頼んで月に数度は園芸センターに通い、熱心に売り場を回っていたが、アリノスダマは一度も売られていなかった。

大人になったわたしは、東京という園芸好きにとってはベリーハードな土地(庭がないので)に住むようになったが、それでもシェアハウスの屋上を間借りし、中国製の栽培用ランプを取り寄せ、欧米やオーストラリアから種を個人輸入し、細々と植物を育てていた。

Eco Warrior Princess/Unsplash

そんなある日、とある通販ショップで、どこか見覚えのある苗の写真を見たのである。その、緑のピンポン玉のようなフォルムは、間違いなくアリノスダマの近縁種だった。

もちろん買った。値段は下品になるのであまり言いたくないが、ひと月ぶん昼飯を抜けば買えたのでそうした。ネットで有名な美味しんぼのセリフで「トンカツをいつでも食べられるようになりなよ」というのがあるが、若いころは、自分がトンカツをいつでも食べられない大人になるとは夢にも思わなかったです。

まあトンカツはいい。わたしは種類の違う三株を買った。

なぜ三株かというと、経験上、新しい植物ジャンルに挑戦するときは、可能なら複数株買うのがいい。何かを間違えて一匹が調子が悪くなった時に他のを救えるし、手のかけ過ぎや忘れるのも防げる。残りがあるほうが経験が活かせるのである。不思議と生き残りも出るから投げ出さずに済むのだ。初手から複数株買いましょう。

なんにせよ、わたしはついにアリ植物をお迎えできた。

手前の3株がアリノスダマ

さて、ここで今回栽培させていただいた(敬語)アリ植物様の三種類を紹介しよう。いずれも、小さいうちはころんとしたボール状だが、育つにつれて形は種類ごとの個性が出て、より複雑で面白味のあるものになる。この奇怪な姿を表現するのはなかなか難しいので、わたしとしても小説を書く者として比喩をこねくり回してがんばってみようと思う。

まずヒドノフィツム・パプアナム(Hydnophytum papuanumなど)だ。これは三個体の中でもひときわきれいな緑色が目を引いた。残念ながら今回はその雄姿を拝めなかったが、育った姿は不規則に生えた根が毛のようで、新鮮なガチャピンの死体のようである。かわいいですね。

つぎにヒドノフィツム・ペランガツム(Hydnophytum perangustum)こちらは葉が細く、胴体部にツヤがある。これも悲しくも成長した姿を拝めなかったが、育った姿は枝葉は繊細ながらも胴体は「ぬん」とした不気味な存在感を示している。鉢植えで実も見られるようで盆栽のような楽しみ方もできそうだ。かわいいですね。

そしてミルメコディア・ベッカリー(Myrmecodia beccarii)ミルメコディア属はアリノトリデ属とも呼ばれるようだ。これはわずかに銀色めいた光沢があり、表面も隆起がある。まるで風雨にさらされたアルミホイルの帽子のようだ。かわいいですね。

いずれも、かわいげと不気味さをあわせもっている。そのありようは、どこか水木しげるの妖怪画を思わせるものだ。

今では普通に手に入るアリ植物

さて、ここでふたつほど補足をしておきたい。

まずひとつめ、昔はどんなに探しても買えなかったアリ植物が、こんなに簡単に買えるようになったのだろうか? 

それは最近の園芸ブーム、特にビザールプランツブームとともに、タイ王国の存在がある。タイは国策で観葉植物の生産も推進しているらしく、園芸界で急速に存在感を増している園芸王国なのだ。

さらには、最近では国内にもアリ植物を専門に扱う業者さんがある。アリ植物はまだ一般にはそこまで知られていないが、これから躍進しファンが増える園芸ジャンルだと思う。というかそうなってほしい。

ふたつめ、アリ植物という分類について。

アリノスダマと書くとあたかも単一の種だけあるようだが、実際には近縁種が複数あって、そっちもアリノスダマと呼ばれたり呼ばれなかったりする。

また、「アリノスダマ=アリ植物」ではない。自然界にはアリと共生(または利用)する植物がたくさんあって、アリノスダマはそのうちのひとつだ。身近なアリと関係ある植物だと、スミレがそうだ。スミレはアリに種を巣に運ばせる。

アリと関わる植物は多すぎて書ききれないほどだが、ここでは「自然ではアリと共生する、おもしろい形の植物」ということでひとまずオッケーとしてほしい。

ここからは、実際の様子や栽培について触れていく。

購入したアリ植物は、いずれもココナッツの殻から作った土に植えられていた。日本は検疫が厳しく、基本的に海外から「土」を持ち込むことはできない。なので海外から輸入される苗はこのようなヤシガラなどに植えられている。

わたしはここでちょっと興奮しすぎて先走った。本来ならもっとよく調べて慎重に動くべきところを、早く植えつけたくて先走ってしまった。抜いてみるとそれほど根は張ってなかったので、わたしはこれをミズゴケ(園芸資材)に植え替えた。他の木にくっついて育つ植物ではよく使われるやり方だ。

丸い胴体に穴が見える

植え替えの時に、すでに小さな穴があるのが確認できた。

アリ植物は育つにつれて自然にその胴体に空洞ができていく。スキャン画像を見たことがあるのだが、ごく小さな個体だと穴は単に棒状のものだった。それがどんどん複雑になっていくのだ。

そしてアリの出入り口になる小さな穴がある。この穴も初めのうちはひとつだが、成長すると増えるらしく、オカリナのようになった写真も見たことがある。ワクワクする。

しかし同時に、栽培するにあたってはこの穴は「急所」らしい。というのも、ここから水が入って体内に水が溜まるなどすると、そこから枯れてしまうことが多いらしい。

どうやら野生下では穴は下向きになるらしい。ここでわたしは思った「もしかしたら穴が下を向くように植え替えたほうがいいかな?」と。そこでいったん植えたものを植え直し、かたむけたりした。頻繁に植え直すのは根によくない。

それに、この心配は杞憂だったみたいだ。というのも、のちに小さなアリノスダマの内部画像を見る機会に恵まれたのだが、もともと穴の中はかなり角度がついているようだ。つまり人間がその辺に気をつかう必要はなかった。

アリノスダマを信じ切れなかった。そこが敗因ということもあるかもしれない。

アリ植物を実際に栽培してみた結果

さて、栽培の顛末がどうなったかというと、三株のうち二株はあまりうまくいかなかった。初めのうちはわりと調子よく伸びてくれたのだが、寒くなるにつれて葉が落ちたり、調子を崩してきた。

諸般の事情でそのときに引っ越しが重なり、温度などを十分に安定させることができなかった。とくに湿度が安定しなかったのがまずかったようだ。そんなわけで三株のうち二株は成長が鈍り、最終的に枯れてしまった。

しかし、残りの一株、アリノトリデことミルメコディア・ベッカリーだけは違った。他の二株と違い環境が合ったのか、みるみる大きくなった。

名前が長いのでベッカリーちゃんと呼ぼう。ベッカリーちゃんはよく分からないところがあり、調子よく枝をびろびろ伸ばしていたかと思ったら、急に厚みのある葉をボトボト落としたりした。

植物栽培において落葉期でもないのに葉がボトボト落ちるというのは基本的にはかなりまずいサインで、十中八九枯れる。人間で言うとメシが食えなくなるぐらいまずい。のだが、ベッカリーちゃんは不思議と弱らず、しばらく経つとまた葉を出したりして太りだす。それが引っ越しのたびに繰り返された。

そのまま三年のあいだ、わたしとベッカリーちゃんはうまくやっていたのだが、もしかしたらうまくやれていると思っていたのはわたしだけだったのかもしれない。

諸般の用事のためしばらく家を空けていた間に、彼女(もう彼女でいいことにしました)は枯れていた。その枯れ方は、まるでボールがしぼむようで、本当にぺったんこになってしまった。

その様子は、油断して気を抜いたわたしに愛想をつかしたような感じだった。

それからしばらく、植物からは手を引き気味だったが、あきらめたわけではない。最近、大量の廃材が手に入ったので、以前よりもパワーアップ(当社比)した栽培設備を作ることができた。

今度こそ。と思っている。

ベッカリーちゃん、葉っぱがなくなった後しれっと新葉を出しているところ。最後までよくわからない子だった

さて、最後に余談をふたつ。

余談ひとつめ、アリ植物にはほかにも、シダの仲間でスライムのような塊根でアリと共生するアリノスシダや、葉をアリのためにテント状にするガガイモ科の植物、アリを住まわせミツまで提供するアリアカシアなどがいる。いつかアリ植物コレクションなどもしたいものである。

余談ふたつめ。実はこの記事の打ち合わせの段階で「部屋にアリがたくさん来たりはしてしまわないのですか?」と質問されたが、残念なことにそのようなことはない。日本でアリ植物を栽培した場合、アリと共生することはない。アリもセットで飼えたらすごそうだが、アリの飼育はとても難しいそうだ。

アリが住んだアリ植物なんて夢のようなもので、私だったら飛び上がって喜んで自慢しまくるのだが、質問をくれた方はそれが心配事だという。不思議なものだなあ。

自作の栽培設備。もらってきた廃材の寄せ集めで作り、アマゾン欲しいものリストで買ってもらったペンキで塗装した。ありがとうございます
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