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むしろ男性にこそ薦めたい傑作ファンタジー少女漫画『Landreaall』を推して推して推しまくる。

海燕

偏愛・脳汁を語るサイト「ヲトナ基地」では、多数の「愛しすぎておかしくなるほどの記事」をご紹介してまいります。
ヲトナ基地で今回紹介する記事は「むしろ男性にこそ薦めたい傑作ファンタジー少女漫画『Landreaall』を推して推して推しまくる。」。海燕さんが書かれたこの記事では、マンガへの偏愛を語っていただきました!

とくに男性の場合、ふだんから相当にマンガを読んでいても、少女マンガだけは手を出さないという人は少なくないだろう。

そういう人のなかでは少女マンガというジャンルはいわゆる「男性向け」の作品とはまったく異なる作風と考えられているようだ。

どうせ他愛ない恋愛マンガばかりなのだろうといった偏見もあるのかもしれない。

しかし、どうせマンガを読むのなら少女マンガに触れないことはいかにももったいない。少女マンガは「男性向け」マンガ以上に、歴史を超える名作傑作の宝庫なのだから。

今回はそういった「女性向け」マンガの世界から、おがきちかの冒険ファンタジー『Landreaall』を取り上げたい。

既刊40巻以上!じつは男性にも入りやすい絵柄、物語、設定。

このマンガ、すでに40巻を超える物語が積み上げられている作品ではあるが、一部のコアなマンガ読み以外にはあまり広く知られていないように思える。テレビアニメ化されたわけでもないし、並はずれたベストセラーというわけでもない(OVAは一作作られている)。

しかし、この作品は紛れもなく破格に面白い。じつはそもそも「少女マンガ」という括りに入れて良いのかすらわからないところもあるのだが、「女性向け」の作品であることは間違いないからここではそのジャンルの作品とみなすことにしよう。

とにかく少女マンガに何らかの偏見を抱いている向きにはぜひ読んでいただきたい一作である。

おそらく男性読者にとってもなじみやすい作風だし、また、ひとつのエンターテインメント作品として傑出していることがわかるはずだ。

物語は主人公DX・ルッカフォートと、その妹イオンの「ドラゴンとの戦い」から始まる。最初の三巻をかけて、かれらがどのように封印されたドラゴンと対決し、そしてかれを解放するか、そのプロセスが描かれる。

「竜退治」といえばファンタジーの王道にして定番の展開だ。ここまではひとまず、「ザ・ファンタジー」のような内容といっても良いと思う。

ところが、そのようにしてドラゴンを倒したDXは、お姫さまを助け出すどころか失恋し、その結果、人生の目標を見失ってしまう。

そして、広い世界を見るべく王都の〈アカデミー〉に入学する。何とここで竜退治から一転し、学園ものが始まってしまうのである。

じつはここまではその後の長い物語のプロローグであるに過ぎなかったというわけ。『Landreaall』が物語として真価を発揮し始めるのはここからだ。

一気にキャラクターの数が増えて、卓抜な群像劇がくりひろげられる。そして、また、DXはドラゴン退治以上に困難な問題、つまり複雑に絡まりあった人の思惑を解きほぐすことに挑戦する。

それにしても、このDXというキャラクターについて、どのように解説したものだろう。

いかにもひょうひょうとして捉えどころがない性格の、一見すると何も考えていないようにすら見える若者なのだが、じつは非常に深いところまで物事を見て考えていることが、物語が先へ進むにつれてあきらかになっていく。

決して「海賊王に俺はなる!」と叫んだりするタイプではないが、じつは王位継承権第四位をもつ王子でもある。

ドラゴンを解放したあとすっかりやる気をなくしてしまったかれが空の王位を巡る陰謀に巻き込まれ、それを解決するという展開は、意外性があって興味をひく。

そして、そこへさらにかれの父がなぜ王位に就かなかったのかという「革命の真実」を巡るなぞが絡む。

物語はきわめて複雑かつ重層的に組み上げられている。その構成力は傑出したものだ。先へ進めば進むほどさらに登場人物の数は増え、いよいよ『HUNTER×HUNTER』ばりの群像劇が展開することとなる。

ひと筋縄ではいかないような個性的なキャラクターが次から次へと出てきては、その役割を果たしていく展開は、まさにファンタジーマンガの醍醐味。

恋愛要素もあることはあるが、決してそれだけの作品ではない。むしろ、謎、冒険、戦い、恋愛、幻想と優れた物語に必要なありとあらゆる要素をぎゅっと詰め込んだ正統の娯楽活劇なのだといいたい。

それぞれに背景と思惑を抱えたさまざまな人たちとの出逢いと別れを通し、DXとイオンは、基本的な性格こそ変わらないものの、少しずつ人間的に成長していく。その成長物語としての筋書きも読みどころのひとつだ。

壮大な群像劇「アカデミー騎士団編」

そういった連綿たるストーリーのなかでも、わたしが最高に盛り上がったエピソードとして取り上げたいのが、第12巻から第13巻にかけて収録されている「アカデミー騎士団編」だ。

あるとき、DXやイオンたちが通うアカデミーをまったく情報のないモンスターが襲うところから始まる話で、たまたま騎士団が不在であったことから、その場の弱い者を守るため、アカデミーの生徒たちが立ち上がるさまが描かれる。

アカデミーには騎士候補の生徒も在籍しており、かれらは未熟で無力であるにもかかわらず、その義務を果たすために戦うのである。

しかし、本来ならその地位の面からも資質の面からもリーダーになることができるはずのDXもまたある理由で不在、残された生徒たちは命をかけて重大な決断を迫られることとなる。

そして、それでもなお、かれらは身分も出身も超えて協力しあい、最後のひとりが斃れるまで戦い抜くことを誓うのである。

そこへ〈スピンドル〉と名づけられたモンスターの正体をめぐる謎が絡み、急遽、リーダーとして選ばれた大貴族のティ・ティの命令のもと、ひとりひとりの生徒たちは戦略的に戦ってゆく。

頼れる大人はどこにもいない。たったひとり実戦経験があるDXもどこかへ行ってしまっている。その過酷な状況下で急ごしらえの「アカデミー騎士団」が結成され、〈スピンドル〉との壮絶な戦いがくりひろげられる。

アカデミーに残っていたイオンがあたかも主君の姫君のようにかれらの勇気を鼓舞し、少年たちは本物の騎士のように戦うのだ。最後のひと羽が落ちるまで!

これは、燃える。めちゃくちゃ燃える。あまり性差にこだわることも良くないかもしれないが、おそらく男性読者にこそウケが良い展開であるだろう。

この作品を多くの男性マンガ好きたちが知らないままになっている現状はほんとうにもったいない。もし、あなたがこの作品を未読で、ファンタジーが好きなら、いまからでも遅くないからぜひ読んでみてほしい。最高にシリアスでいてポップ、胸躍る冒険がそこにある。

さらに興味深いのは、このとき、アカデミー騎士団として戦った生徒たちが、のちのちまでその経験を活かして活躍していることである。

かれらはやがて貴族として、あるいは商人として、そうでなければただの平民としてその国を担う人材たちであるわけだが、この〈スピンドル〉襲来の事件を契機として、どのような国を作っていけば良いのか真剣に考える。

はたしてDXやイオンが王位に就くことになるのかどうかはまだわからないが、もしそのようなことになるときが来たら、かれらはその統治のもと、アカデミー騎士ならぬ本物の騎士や一流の商人として、その役割を果たすことになるのかもしれない。

ここら辺のじつに壮大で遠大な構想もまた、未読の男性読者にこの作品を知ってほしいところだ。ようするに一本のファンタジーマンガとして、素晴らしく出来が良い作品なのである。

ただ、いわゆる「王道」の物語にひとひねりを加えてあるストーリーなので、このマンガを好んで読むのはふつうのファンタジーに飽き飽きしたようなタイプの人になるだろう。

ただのドラゴン退治では物足りない、革命によって空になってしまった王位を巡ってくりひろげられる、さまざまな陰謀が絡み合い、数々の思惑が激突しあう、長い長い物語を読みたい、そんな人にこそまさにオススメできる作品だ。

少なくともその描写の深みはたとえば『ダンジョン飯』や『葬送のフリーレン』あたりと比べてもまったく劣らない。

巧緻をきわめる伏線! 複雑この上ない世界!

もうひとつ、『Landreaall』の大きな魅力になっているのが、伏線の巧みさと世界設定の複雑さである。

この作品では、数巻、数十巻をかけてとどく伏線がざらにある。じつに何げなく登場した設定が、あとのほうで意外な形で展開して強烈なサプライズを生む、そのようなことはしょっちゅうだ。

作者がどのくらい周到に計算しているのかはわからないが、少なくとも相当に深くまで世界を掘り下げて設定してあることは間違いない。そうでなければ、こうまで綺麗に伏線が敷かれ回収されることはありえない。

じっさい、この作品は「まさか、あのちょっとした展開がここでこう物語に影響してくるとは!」という展開ばかり。

そもそも『Landreaall』というタイトルを見て、何を意味しているのか気になった方も少なくないのではないだろうか。

ふつうに考えるなら、とくべつ深い意味のない雰囲気だけの造語とも思える。ところが、物語が進むこと30巻あたりで、ようやくその真の意味が明かされるのである!

そんなのってあり? 規格外の超々遠距離伏線としかいいようがない。

その意味でも『HUNTER×HUNTER』が好きな人はこのマンガを読んでみるべきだと思う。

一見するとまったく違う作風に見えることだろうが、その、複雑な物語を端正に構成していく秀抜なストーリーテリングのスキルにはどこか似通ったところがある。

じっさい、30巻代後半から40巻代にわたって延々と続く「ダンジョン編」では、国家のさまざまな社会階層を形成するあらゆる人物たちが入れ替わり立ち代わり活躍し、『HUNTER×HUNTER』の「キメラアント編」に比肩する複雑さを見せる。

もちろん、その中心にいるのはダンジョンの奥深くまでもぐったDXであり、またかれのことを追いかけるイオンであるのだが、かれらを直接に間接に援助するため、膨大な人々が絡み合う。

「いわゆる少女マンガ」にバイアスを持っている人たちの想像を絶するであろう複雑巧妙なプロット。いったいどうやって構想し計算しているのか、想像もつかない。

また、一人ひとりのキャラクターも魅力的で、いわゆる「キャラ萌え」で追いかけるだけでも十分に楽しめる。

ちょっとひねくれた連中が多いから一般的な美形ぞろいの「キラキラ少女マンガ」とはまたすこし違う作風ではあるのだけれど、だれもかれも素晴らしい個性を備えている。

いかがだろう、読んでみたくなっただろうか。少女マンガの世界は広く、『Landreaall』の「沼」は深い。そのほとんど底なしの沼に、あなたもいっしょに嵌まってみてはどうだろうか。

そこには、広大無辺な幻想と冒険の大地が広がっていて、いまも、あなたの到来を待ち受けているのである。

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